建築家と呼ばれる人たちには、ガラスの家のような建築を目指す傾向があります。
プライバシーも何もあったもんじゃない。
私は市井の職人がつくる普通の家のほうが、はるかにすばらしいと考えています。
ところが、現在の日本では外とのつながりという聞こえのいい言葉とともに
前者に近い考え方で家が建てられているような気がします。
事実、雑誌の影響でリビングの大きな掃き出し窓からつながる
ウッドデッキをご要望いただくことも多いです。
が、土地条件が合わない場合は、ご遠慮いただくこともあります。
なぜか。
もちろん敷地に余裕がある場合や景観がすばらしい場合は私もそのようにデザインします。
しかし、現実的にそのような敷地に住める方は限られているのではないでしょうか。
道路の方位や植栽の不足等でリビングでのプライバシーが守られない場合は、
大きな開口をつけても一日中カーテンをした暮らしになります。
自分から見えるということは外からも見えるということですから
外敵に身をさらすのと同じ緊張感が生まれてしまうのです。
また、リビングや茶の間といった「集う部屋」は明るくしすぎないことも重要です。
確かに各社のオープンハウスやモデルハウスでは光に満ちていて
一時的には素敵に思えるかもしれません。
しかし、家は店舗やホテルではなく、長い時間じっとりと過ごす空間です。
我々のDNAには、ほの暗い空間で落ち着きを得る性質が備わっています。
洋の東西を問わず、茶の間やリビングのほの暗さの中から
自然光こぼれる庭を眺めるスタイルが多かったように思います。
そういった意味でも居間に外との一体感を持たせすぎるのはちょっと違うかなと考えています。
そしてウッドデッキ。
これは「絶対に」道路面につけてはいけません。
よほど神経が太くないと使えない空間になります。
バーベキューなんて思ったよりも人の目が気になることに気づくでしょう。
安くはない投資ですから、イメージだけではなく現実も考えるべきです。
では道路面にどうしてもデッキがほしいときはどうするか。
デッキに屋根と腰までの柵を作るのです。
するとアラ不思議、とても守られている感じになります。
デッキに座って道行く人に手を振っちゃったりなんかして。
中と外があいまいにつながるからなのです。
さらに掃き出し窓は、既製品では開放性が強すぎるので
ナチュラルリビングのオリジナルの建具にすれば完璧です。
居間への直射日光も遮られますから一石二鳥です。
実はこれは広縁や濡れ縁の考え方に非常に近いものです。
サザエさんの磯野家に見られるような日本家屋の開放性は
塀や垣根と軒の出が長い縁側によって保護されているのです。
(しかも解放しているのが道路面ではない)
ましてや、いささか先生の奥さんと垣根越しで話すようなご近所づきあいが少なくなり
プライバシーへの欲求が高まっている中での単純なウッドデッキブームは
なにか矛盾したものを感じます。
雑誌の施工写真はとてもきれいに撮れています。
でも実際に住むとなるとデメリットも知らなければなりません。
あとで後悔しないように、ナチュラルリビングでは単純にご要望を形にするのではなく
現実に沿ったご提案をしていくことが一番大事なことと考えています。
コメント
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