人の好みというものは年とともに変わります。
二十代で建てた家と四十代で建てた家が同じくなることはありえません。
だから、好みを超越したオーソドックスデザインで家を建てるほうが後々まで愛せます。
もちろん技術面では進化していますから100年前と同じ家を建てる必要はありませんが
100年前からの正常進化に基づかない流行は淘汰されます。
ナチュラルリビングは、日本人だから和、という点にはこだわりません。
毎年モデルチェンジされる現代和風の家よりも
クラシック洋館のほうが淘汰されずにいるという現実があるからです。
(それに衣服も洋服ですし、おっさんになると洋食が苦手になるのは
ちょっと話が違いますよね)
「シェモアへの道」最終回はそんなことを考えながら書いています。
右往左往してきた私でしたが、ハウスアンドガーデンの家との出会いで心は決まりました。
「限りなくやさしい空気感がいつまでも続く家をつくろう。」
上越の家づくりに一石を投じたいドンキホーテ、勇者になりたかった私でしたが
もはやそんなことは関係なく、優しい「優者」でありたいと思い始めました。
(それでもデジタルな家には批判的で攻撃的ですが)
モデルハウスのデザインは優しい空気感を常に意識しながら進められました。
建具が手作りですから結果として木の家に仕上がっているようにも見えますが、
木以外の自然素材の比率を上げ、鉄や石などの無機物を装飾過剰にならない程度加えて
それぞれの素材や家具が喜ぶことを大事にしています。
木を見せるところも、節のない高級な木を使うよりも
普通の木を少し着色してあげることで調和を図っています。
色のコーディネートも教科書的なものとはまったく逆で
多色使いでもうるさくならないぎりぎりの線です。
このコーディネートの途上ではスタッフにもずいぶん嫌われました。
それだけナチュラルリビングのスタッフも木の家であることだけにこだわりすぎて
空気感を作るということが抜けていた証拠かもしれません。
というよりも、わたしが急に舵を切りすぎたからで、企業経営は難しいですね。
まあ、こんな感じであっちにウロウロこっちにウロウロしながらも
モデルハウスは形になりました。
H&Gの家をまねているのかといえば全部がそうなわけでもなく、
素材をやさしく見せる方法はH&Gから、空間のつなげ方は私の師匠から
そして自分の経験と感性に耳を傾けながらのモデルハウスづくりです。
いわゆる新潟の木の家からはずいぶんと遠ざかり、
初期のナチュラルリビングとはずいぶんと変わったと思います。
まさか途中でガルバリウム信仰に行きかけていたなどとは思いもよらないでしょう。
でも、その途中の葛藤は、住む人が自分らしく(=ナチュラルに)暮らせる家というものへの
追求があったことをわかっていただければいいと思います。
まあ、結局は「私が住みたい家」への追求だったわけですけど。
だからシェモアは、おしゃれに、だらしなく、長く愛着を持って暮らせる家。
これが皆さんにとっても住みたい家になればいいなあと願っています。
最後は名前。
カリフォルニア建築でしたのでスペイン系の名前にしようかと思ったのですが
誰もスペイン語がわかりません。
そこでフランス語でワシやタカなどの猛禽類を表す“ラパス”にして
上昇気流に乗って高く上がることを期待したのですが(私はグライダーのパイロットですから)
私のフランス語の先生の独断で口当たりのいい言葉の“chez moi”(私の家)になりました。
なんだかんだ偉そうにいってもいろんな人にお世話になってシェモアが生まれたのでした。
おしまい(ブログは続くよ!)